2016年10月3日に東京工業大学栄誉教授の大隅良典氏がノーベル医学生理学賞を受賞しました。これで、日本人のノーベル賞受賞は3年連続となります。日本の科学研究の底力が世界中に認められ大変喜ばしいことです。
さて、今回受賞理由となった「オートファジーの解明」ですが、これが何のことが良くわからない人も多いのではないでしょうか。この記事では、オートファジーとは何なのかその仕組みや、この研究によって期待されている成果なども合わせてご紹介していきます。
オートファジーとは?
オートファジーとは、細胞内のタンパク質を分解して不要物の除去やリサイクルなどをする仕組みのことを言います。「ファジー」はラテン語で「食べる」を指し、それに「自動的な」を意味する「オート」が付随して、自食作用を意味する造語「オートファジー」と命名されています。
オートファジーは多種多様な生物の細胞が備えている基本的機能であると言えるでしょう。細胞内に侵入する外敵をブロックする機能があり、発病や老化現象などとも深い関わりがあることが解明されています。そして、このオートファジーの解明に多大な貢献をしたのが大隅教授なのです。
自食作用
最大の特徴は文字通り自食作用にあります。細胞は本来生命活動を維持するために、その栄養源となる必須アミノ酸を外部から取り入れなければなければならず、この供給が断たれれば生死に関わってきます。しかし、オートファジーが作用すれば外部から取り入れなくても、細胞内のタンパク質を分解し必要な栄養分としてリサイクルすることができるのです。
プログラム細胞死
分裂から発生した細胞は自ら死ぬことで様々な形態を形成していきます。遺伝情報にプログラムされた通りに細胞が死んでいくことから、この現象はプログラム細胞死と呼ばれています。
プログラム細胞死の中にはオートファジーを伴うものがあり、この遺伝子の働きが抑制されると個体発生時に異常が生じることが近年の研究で示されています。この現象からも、オートファジーは生物の発生過程において極めて重要な役割を担っていると言えるでしょう。
難病治療への期待
オートファジーの研究が進むことで最も期待されているのが難病治療の分野です。オートファジーが正常に機能しない場合に神経疾患やガンが誘発されることが指摘されており、機能の解明が進めばこれらの病気の新たな治療法が開発されるかもしれません。
既に一部のガン細胞の増殖にオートファジーの過剰作用が影響していることが知られています。また、アルツハイマー病は細胞内に異質なタンパク質が蓄積することで発症することが明らかになっているので、オートファジー機構の解明が進めばこの蓄積を制御することができるようになる可能性も秘めているのです。
オートファジーの解明が、これまで治療法や特効薬が存在しなかった病気に対しても光を照らすことになり、この分野への研究は今後も益々注目を集めていくことになるでしょう。画期的な治療法が開発されるのもそう遠いことではないのかも知れませんね。
まとめ
ここまで、オートファジーの仕組みと成果についてご紹介してきました。
オートファジーが細胞の生命維持、ひいては生物そのものに無くてはならない機能であることがご理解いただけたのではないでしょうか。また、この機能の解明が難病治療に大きな前進をもたらす可能性があることもお分かりいただけたことでしょう。
いずれは、現在難病と言われている病気がそう呼ばれなくなる日が来るのかも知れませんね。その研究に多大な貢献をしたのが日本人であることは、本当に誇らしいことだと思います。