理化学研究所が発見したアジア初の新元素。ついに本日2016年6月8日22:30に名称案が公表されます。当初はジャポニウムが有力とされていましたが、自国語(日本語)に基づく ニホニウム で固まったようですね。
2004年に理化学研究所が合成に成功してから10年以上の歳月を要しましたが、ついに名称が発表されると思うとワクワクしますね。今回は新元素の発見~命名権獲得までの軌跡を振り返ってみたいと思います。
※以降の本文では便宜上、原子番号113番の新元素名称をニホニウムと記載します。
ニホニウム(nihonium)ってどんな元素?
出典 http://image.itmedia.co.jp/
ニホニウムは周期表で第13族元素に属する超ウラン元素の一つで、この中では比較的長寿命の部類です。元素記号は Nh 。
※超ウラン元素は、原子番号92(ウラン)より大きい原子番号の元素。
原子番号93(ネプツニウム)以降は全て人工合成により発見されており、無論ニホニウムもその一つです。
周期表ではタリウムの下に位置しているため、 エカタリウム とも呼ばれています。
詳細は後述しますが、新元素の命名権をアメリカ・ロシアの共同研究チームと10年に渡り争っていたことでも知られていますね。
ニホニウムの実用性や効果
このような科学的な大発見があったときに気になるのが、どんな実用性や効果があるのかということではないでしょうか。
◇実生活での実用性や効果
現在のところ、ニホニウムが実生活に役立つようなものであるとは残念ながら言えません。
取得するのも非常に難しい上に、寿命はわずか 100万分の344秒 というとてつもない短さなのです。
なので、使い道や実用性を列挙することは現時点では難しいでしょう。
◇科学的な意義
科学的な意義は非常に大きいと言えます。
それは、 安定の島 と呼ばれる未知の領域への足掛かりになる可能性があることです。これはあくまで理論的な推測に過ぎないのですが、この領域にある原子核の寿命は、量子力学的な効果によって極めて長くなると考えられているのです。
現在の超重元素は作り出すのがとても難しく、寿命が非常に短く、崩壊すれば止める術もないものです。しかし、仮に安定の島にたどり着き大量の超重元素を作り出せることになれば、今までは考えられなかった性質を持った元素や化合物が見つかる可能性を秘めています。
となれば、やがては 夢の新物質 の発見も十分に考えられるでしょう。それが数十年後か数百年後かは分かりませんが。。。
新元素113番の発見
発見の歴史は13年前までさかのぼります。理化学研究所の研究チームとアメリカ・ロシアの合同研究チームの発見経過を時系列で追ってみました。
2003年8月
ロシア(ドゥブナ合同原子核研究所)とアメリカ(ローレンス・リバモア国立研究所)の合同研究チームがアメリシウム(原子番号95)とカルシウム(原子番号20)からウンウンペンチウム(原子番号115)の元素合成に成功。
2004年2月
同研究チームがウンウンペンチウムのα崩壊の過程で、113番元素を0.48秒間観測したと発表。
2004年9月
日本の理化学研究所が線形加速器を用いて、亜鉛(原子番号30)を光速の10%にまで加速させビスマス(原子番号83)に衝突させる事で113番元素の合成に成功。
2005年6月
理化学研究所が2個目の合成に成功。以降、全く成果の出ない「魔の7年間」が始まる。
2006年6月
ロシア・アメリカの合同研究チームが、ネプツニウムとカルシウムからの新元素合成に成功したと発表。
2009年
同研究チームとアメリカのオークリッジ国立研究所なども加えた共同研究が実施される。ウンウンセプチウム(原子番号117)をバークリウム(原子番号97)とカルシウムから元素合成し、その崩壊過程で113番元素を検出。
2012年9月
理化学研究所が3個目の合成を発表。113番元素が6回のα崩壊を経てメンデレビウム(原子番号101)となる崩壊系列の確認に成功。さらに、次のローレンシウム(原子番号103)もα崩壊でメンデレビウムとなるのを観測できたため、元素が崩壊した後に既知の原子核に到達することを証明するに至った。
合成した原子核が新元素であることを証明。
2015年12月
理化学研究所が新元素113番の命名権を獲得。
最初の発見から10年以上にわたって、合成とその確実性を証明するための激しい競い合いが行われてきたことが良く分かりますね。
Newton (ニュートン) 2016年 07月号 [雑誌]
新元素113番の命名権争い
長年争われてきた新元素の命名権。なぜ10年以上も、どちらの研究チームも承認が得られなかったのでしょうか。
主な理由は、証拠の不確実性にありました。新元素発見の大原則は『崩壊系列が、既知の核種に到達すること』であり、これに対する確実な証拠を両チームとも提示できていませんでした。
しかし、先述の通り2012年9月の理研の実験結果は、元素が崩壊した後に既知の原子核に到達することを証明するに足るものでした。その崩壊する過程が詳細に捉えられており、理研の実験の質の高さをIUPAC評議会が評価したのでしょう。
何はともあれ、アジアで唯一、周期表の座席を獲得できたことは本当に喜ばしいことですね。この喜びの命名権獲得会見もご覧ください。
◇Nature誌上での命名予想
完全に余談になりますが、イギリスの科学雑誌ネイチャーのブログ版「The Sceptical Chymist」で専門家による元素名の予想が行われていました。何とオッズ付き。
ここで面白い候補が挙がっていました。天照大神(あまてらすおおみかみ)⇒ Amaterasium 、煙々羅(えんえんら)⇒ Enenraium 、ゴジラ⇒ Godzillium などなど。
何となく外国人だからつけたがるっていう感じがしますね。面白いですけど。
そう考えると、ニホニウムは間違いなく日本人が考えた感じがして好感が持てますね。
まとめ
ここまで、ニホニウムの発見から命名権獲得までをお伝えしてきました。
発見から命名権獲得までの10年以上の歳月は、研究者にとっては苦労の連続だったのでしょう。全く成果の出なかった「魔の7年間」は、本当に苦しかったに違いありません。プレッシャーも想像を絶するものだったことでしょう。
それが最高の形で報われ日本科学100年越しの悲願を達成できたのは、日本国民にとって本当に嬉しいことです。
理化学研究所は今後も新元素発見に力を注ぐそうです。科学の発展が明るい未来に繋がることを期待したいですね。